開発途上国のエネルギーアクセス問題とSDGs:電力格差をなくすために


世界には、電気のない生活を送る人々がまだ数多くいます。特に開発途上国では、基本的なエネルギーサービスへのアクセスが不足していることが、貧困の悪循環を生み出す大きな要因となっています。SDGs(持続可能な開発目標)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」は、この電力格差を解消し、誰もが安価で信頼性があり、持続可能な近代的エネルギーを利用できるようにすることを目指しています。


エネルギーアクセスが奪うもの:開発途上国の厳しい現実

適切なエネルギーアクセスがないということは、単に電灯がないというだけではありません。それは、人々の生活、健康、教育、そして経済活動に深刻な影響を及ぼします。

  • 教育機会の損失: 夜間に電灯がなければ、子どもたちは勉強時間を確保できません。また、学校に電気がなければ、コンピューター教育や遠隔学習の機会も限られます。
  • 健康被害: 薪や炭などの伝統的なバイオマス燃料を調理に使用することで、室内の空気汚染が深刻化し、呼吸器疾患などの健康被害を引き起こします。また、冷蔵庫がないことで、医薬品の保管や食料の鮮度維持も困難になります。
  • 経済活動の停滞: 電気がなければ、工場や店舗は夜間に営業できません。農業においても、灌漑ポンプの利用が制限されたり、収穫物の加工・保存が難しくなったりと、生産性の向上を妨げます。小規模ビジネスの立ち上げや拡大も困難です。
  • 安全性の問題: 夜間の安全確保が難しくなり、特に女性や子どもが危険にさらされる可能性が高まります。

これらの問題は、貧困をさらに悪化させ、SDGsの他の目標(貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等など)の達成をも阻害する連鎖的な影響をもたらします。


SDGs目標7が目指すもの:誰一人取り残さないエネルギー社会

SDGs目標7は、こうした状況を改善するために、以下のターゲットを掲げています。

  • 2030年までに、安価で信頼できる現代的なエネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。
  • 再生可能エネルギーのシェアを大幅に拡大する。
  • 省エネルギーの速度を倍増させる。

これらを達成するためには、単に発電量を増やすだけでなく、その電力を必要とする人々に届けるためのインフラ整備と、持続可能なクリーンエネルギー源への転換が不可欠です。


電力格差をなくすための具体的なアプローチ

開発途上国のエネルギーアクセス問題は複雑ですが、解決に向けた具体的なアプローチが世界中で進められています。

1. オフグリッド・ソリューションとマイクログリッドの推進

広大な地域に電力網を敷設することは、多大なコストと時間を要します。そこで注目されているのが、既存の送電網に頼らないオフグリッド・ソリューションです。

  • ソーラーホームシステム(SHS): 個別の住宅に小型の太陽光発電システムを設置し、バッテリーで電力を貯めて利用します。比較的安価で導入が容易なため、遠隔地の家庭に光と充電の機会をもたらします。
  • マイクログリッド: 地域内の複数の建物や施設に電力を供給する小規模な独立型電力網です。太陽光、風力、小型水力などの再生可能エネルギーを組み合わせ、蓄電池と連動させることで、地域の電力需要を賄い、安定供給を実現します。コミュニティセンターや学校、医療施設への電力供給に特に有効です。

2. 再生可能エネルギーの活用

クリーンなエネルギー源への転換は、持続可能性の観点から極めて重要です。

  • 太陽光発電: 日照量の豊富な地域では、最も普及している再生可能エネルギー源です。
  • 小型水力発電: 河川の豊富な地域では、小規模な水力発電が有効です。
  • バイオマス: 農業廃棄物などを利用したバイオマス発電は、地域資源の有効活用にもつながります。

これらの再生可能エネルギーは、燃料費がかからず、環境負荷も低いため、長期的に持続可能なエネルギー供給を可能にします。

3. 適正技術とキャパシティ・ビルディング

単に設備を導入するだけでなく、その持続的な運用・保守が重要です。

  • 現地に適した技術の導入: 高度すぎる技術は、現地での維持管理が困難になる場合があります。シンプルで堅牢、かつ現地の人々が習得しやすい技術を選ぶことが大切です。
  • 人材育成(キャパシティ・ビルディング): 設備の運用・保守を現地の人々が行えるよう、技術指導や研修を通じて人材育成を行うことが不可欠です。これにより、地域社会の自立的な発展を促します。

4. 資金調達と国際協力

大規模なインフラ整備には多額の資金が必要です。

  • 公的開発援助(ODA): 先進国からの資金援助や技術協力は、初期投資のハードルを下げる上で重要な役割を果たします。
  • 民間投資の促進: 再生可能エネルギープロジェクトへの民間企業の投資を促すための政策支援やインセンティブも必要です。
  • 革新的な金融メカニズム: 「ペイ・アズ・ユー・ゴー」(使用量に応じて料金を支払う)モデルなど、低所得者層でも利用しやすい料金体系や支払い方法の導入も進められています。

私たちにできること:SDGs達成に向けて

開発途上国のエネルギーアクセス問題は、地球規模の課題であり、私たち一人ひとりの行動も重要です。

  • SDGsへの理解を深める: 開発途上国の現状とSDGs目標7の重要性について学び、周囲に広めること。
  • 持続可能な消費を心がける: エネルギー効率の良い製品を選び、節電に努めるなど、日々の生活の中でエネルギーの無駄をなくすこと。
  • 支援団体への協力: エネルギーアクセス改善に取り組むNGOや国際機関への寄付やボランティア活動を通じて貢献すること。

電力格差の解消は、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会を実現するための、まさに基盤となる取り組みです。地球上のすべての人が、安全でクリーンなエネルギーの恩恵を受けられる未来を目指して、私たちも行動を続けていきましょう。

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